ラブシチュその41

胸が
焦がれる
その存在に

******

先輩
先輩
先輩のことが好き
どうしても好き
好きって思うだけで泣けるくらい
本当はずっとずっとそばにいて私にだけかけてくれる言葉と笑顔が欲しいと思ってるんだけど

どこにいても
誰と話してても
真面目なシーンでさえも
気がついたら考えてるのは先輩のことばっかで
初めて交わした会話のこととか
初めてメアド交換した時のこととか
やり取りしたチャット全部とっといてみたりとか
先輩が私にくれたお土産引っ張り出してニヤついたりだとか
私の世界は同じところばかりをぐるぐるまわる

でも多分
先輩が私を妹みたいにかわいがってくれるのは
きっと本当に妹みたいに思ってるんだろうなとか考えて落ち込んでみたり
あーあ今日は先輩誰と何をしてるのかな
もしかして近くに綺麗な女の人がいたりしてとか自分が傷つくようなことを考えてみたり
私の休日は不毛な妄想で終わる

自分ひとりでいる時でさえ
私の表情感情は千変万化
秋のお天気だってびっくりするくらい

いつになったらこの片思いは消えんのかな
実ることはないんだろうな
でもさっさとフラレにいく勇気もないしな
だとしたら永遠に片思いしてんのかな
なんて

せめて私のこと好きとか嫌いとか彼女がいるとか私のことどうしたいとかなんか言って欲しいよ
悪いこと聞いてもやっぱ、諦めらんないだろうけどさ
どっかでいい方に繋がんないかなとか願っちゃってるしさ
いいことおきないかな、だって先輩私のこと嫌いじゃないしとか
神様には恋愛成就ばっかお願いして都合のいい方の未来を思い描いてさ

先輩
先輩
せめて私の誕生日までには
せめてクリスマスまでには
せめて来年までには
もうちょっと2人の立ち位置について考えてみませんか?




「何してんの」
「えっ」
ぎょっとして携帯を隠した
覗かれた手元には尋ねた相手のこっ恥ずかしいポエム(?)がぎっしり書きこまれたメールが
「アホなこと考えてたんやろ」
「違いますっ」
真っ赤になって否定して、目をあわせられないまま携帯をずるずると机の下へ
「ふーん?」
ニヤリニヤリと私の後ろからのぞくように歩く先輩はうろうろと落ち着かない。
まるで衛星みたいに

それです、それ、その私のこと好きなのか嫌いなのかはっきりしない立ち位置が、もう毎日辛くて苦しくって困ってるんです! どこかわかりやすい位置に落ち着きませんか?

「そんな風に見ないでください!」
「なんで? 見られたら恥ずかしいん?」
「っ……そ、そうですっ」
「俺に見られたら、恥ずいんか?」
「ちっ……」
「顔、赤いよ」
「……」

ああ、もうそういうことばっか言って!
私をからかって!
そのうえじぃっと顔をのぞいたかと思うと、椅子を引っ張ってきて逆向きにまたがって座ってしまった!
落ち着こうとは思ったけど、そんな場所じゃあちっとも落ち着かないよ!
むしろもっと私の妄想が増えちゃうよ!

先輩
先輩はいったい
私をどうしようと思ってるのですか
教えてください
せめて
彼女が欲しいのかどうかくらい

せめて
ヒントでいいから
私のこと
好きですか?





ラブシチュその40

記念すべき40個目
※※

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「お疲れー」
「あ、おつかれ。今帰り?」
「うん」
学校が終わって帰り道。時間は結構おそいけど、太陽はまだ残ってる。残日に照らされた大きな積乱雲は懐かしい色合いに染まって、生ぬるい風が吹いてるか吹いてないかくらいの空気を運んでる。
肌はじっとり汗ばんできて、人がそばにいると余計に汗ばんでるのを感じる。
学校から駅まではそう遠くない。平坦でごみごみした小さな商店街を抜ける真っ直ぐな道だけだ。
今の時間は買い物帰りの主婦や老人たちはすでに自宅で、ぽつぽつと社会人が逆方向に歩いている。
2人だけが別世界のように、暗い建物の影の向こうのオレンジ色に向かって、並ぶ。風は吹かない。

駅まではやっぱりそう遠くない。会話をちまちま続けて時々本当におかしいかもどうかもわからないような笑いをあげながら、ゆるいペースで進む。西日は眩しくてそして熱い。かき混ざらない空気は少しずつ体温をあげる。
こうして並んで帰るのももう何度目だろう。偶然なのか必然なのか。慣れたけれど慣れてないような。嬉しいけど嬉しくない。だって駅についたらお別れ。バイバイまた明日って手を振る。明日どうせ教室で会えるけど、今ここにある時間だってなんだか惜しい。
小さな駅はホームとホームの間隔も狭くて、あっちとこっちで互いに喋ったりもできた。ただ、やっぱり付き合ってもいないのにわざわざそこまでするのも、カッコ悪い。間に電車が入ってきたらもっとカッコ悪い。だからできない。

でさあ、と面白くもない話を必死に続ける。性別が違うから会話の内容もなんだか浮いてしまってる。いよいよ小さな駅の改札が目の前に迫った。改札からこっち側のホームはすぐだから、電車が来たら走ればすぐに乗れるくらいの距離。ちらちら気にしてたら、踏切の音がした。あ、電車くるんだってガッカリ。でもそぶりは見せられない。定期券を出して、改札に入るとき、電車が滑りこんできた。あーあって心の中で思って、「電車来たよ」って明るく言ってみた。もっといたいのになって何となく、くちびるをかみしめるように笑顔を作った。早く乗らないの。あれ?

2人とも、のろのろ歩いてた。
「あれ、乗らないの」
「あ、うん」
電車は扉を開けて乗客を迎えてる。
すぐ目の前で、ちょっとステップ踏めば飛び込める。
「いいの」
「うん」
ぷしゅーっと閉まる。
ひゅーん
行っちゃった
「行っちゃった」
「だね」
「面倒くさがりだね」
「走るの面倒だったし」
いつの間にか本当に笑顔になっていた。
あと5分の猶予ができたって嬉しくなった。
ぐだぐだかばんを揺らしながら、胸の中に夕日が広がってく。
じっとりと肌が熱を持つ。




ラブシチュその39

結局書いてしまった。

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近所に、カルチャーセンターがある。
カルチャーセンターと呼ぶのもどうかと言うところで、実は趣味の教室のほうがしっくりく
る。
静かな城下街によくある、1階が店舗兼工房になった切り株工房が本来の店主の事業なのだけれど、趣味が高じて一般の人にも切り株を使った工芸品の教室を開いたらしい。ところがそれがさらに高じて、木彫りから布飾り、ひょうたんにのれんに果ては陶芸という、店主の好みを何でも楽しもうという一風かわった教室へと発展したわけだ。

毎月いついつにどんな講座を開いているかというのを見て、自分の好きなものにだけいつでも参加できるという、法外に安く気楽なその教室の、和布で作るかんざし作りという回に参加したのが初めてだったように思う。
こういう土地柄なので、来るのはお年寄り、女性しかいないと思っていて、初めての時に若い男性…男子かもしれない…がいて驚いた記憶がある。

結果的に、その教室は私の心にひどくヒットした。気がつけば、2回目、3回目と回を重ねて通い、1年を過ぎ、習ったものの数もずいぶん増えた。
若いくせに古参常連の1人としてからかわれつつも、今じゃ時折新参の講習生を手伝うことすらある。
そしてこれまた予想外に、あの男子も、私と同様の立場になって通い続けた古参の1人となっていたのはちょっと面白く、大して口をきいたことはないが、密かに戦友のような気持ちを彼に対していだくようになっていた。


気分転換にどう? と、友人の女の子をろくろの回に連れて行ったのは、その友人がひどくよく喋る子で、おまけに2つの予定を間違えていたからだ。
私はどうしてもその回に参加したかったし、かといって友人を断るのもどうかと思われて、だったら同時にこなせばいいと考えたのだが、趣味の教室がゆるくてお喋りばかりでも怒られるようなところでもなかったのにも助けられた。
店主兼先生はもちろん、他に来ている生徒さんたちも、途中で帰ったり遅れてやってきたり、お菓子を持ち寄って食べたり井戸端会議の場所代わりにしている風潮もあるので、友人の作品が帰るときまで例え渡されたときの粘土のままだったとしても、誰も咎める人はいないだろう。

私たちは足踏みのろくろを引っ張ってきて隣に並ぶと、先ずは土を滑らかにすべくこね始める。私はもともと1輪挿しを作ろうと決めていたから、迷いなく初歩の菊型を作ることに8割型集中していたが、友人は考え半分お喋り半分、その手触りをもてあそぶようにたどたどしくいじくりまわし、挙句、徐々に会話をとスライドさせる。

「や、これ、結構難しいね」
「うん。コツがいるかも。もっと、上から押して、全体が混じるように」
「うわ、無理。そんな綺麗にできない。もっとやって。で…何つくろう。んー、無難にカップでも作ろうかな。彼氏のと自分のぉ」
「いいんじゃない」
「わ、冷た。もっとリアクションとってよ!」
「私は自分のことで手一杯」
「それってさあ…ハマーから聞いたよ。なんか、今いい感じなんだって?」
「いい感じ?」
「えー、あれでしょ。なんか、コーコーセーと付き合いそうとかって」
私はしれっとした視線を友人に送り、そっけなく、そんなわけないでしょと返した。
「だって! 毎週定期的に会ってるって。いい感じで仲良くさ。珍しく積極的に会話してるって聞いたから。違うの?」
それに対しても、返事せず。
「もう…そんな隠すことないじゃーん。なに、じゃあのぼせてるのは相手だけで、そっちは全然気がないって言うの?」
「なんでそういう話になるわけ」
「だあーってえ、毎週バイトついでに現場を見てるハマーがそう言うんだから。待ち合わせして会ってるんでしょ?」
「違う。私は決まった日に行くだけで、向こうは…知らない」
「それって! 完全に会いに来てるってことじゃん!」
「だとしても、私はそういうつもりで相手してない」
「いつも楽しそうに話してるっていうのは?」
「そりゃあ知り合いなんだもん話くらいするよ。話すれば楽しくするもんでしょ」
「何その温度差! え、じゃあ相手の子はそうとも知らず期待しちゃってるわけ!?」
「期待させてるつもりない。いい感じだなんて、たぶん誤解だよ。可愛い子だなとは思う。キライじゃない。でも、それだけだよ。私は――」
「でも会ってるの? 本当に好きじゃない? その子が来るってわかってて、待ってるんじゃないのに、毎週会うっておかしくない? 相手は絶対誤解してると思うよー。それに今フリーなんでしょ。だったらお試しで付き合ってみたって…」
「イヤ――絶対に。私は誰とも付き合う気ないの。勝手に期待されて勝手にのぼせあがられても困る。そんな風に言われるくらなら、もう来ないでほしい。私があの店に行くのは理由があるからで、彼に会うために行ってるわけじゃない。なのにそんな勝手に噂されて誤解を招くようなことばらまかれる私の気持ちになってよ」

――少し、私は興奮していたらしい。友達が驚くほどぽかんとして私を見ていた。私は、強く言い過ぎたことを後悔し、友人に謝った。ちょっと気恥ずかしくて、その場を逃げるように、雑巾を取りに行った。古参仲間の男の子がそばにいたので、気持ちを切り替えるつもりで何気なく話しかけた。挨拶だけのつもりだった。でも相手はひどくすげなかった。

「…ああ」

これまで彼はとても親切だった。特に何をしてもらったというほどのこともないけれど、言葉には親しみもあったし、何かを頼めば快く引き受けてくれた。でも今は、ただの挨拶にもそっけない雰囲気をにじませていた。

本来人懐こい感じの彼がにこりともせずにいたから、私はびっくりしたのを丸出しにしてしまった。心の戦友である彼が不機嫌な姿を見せることに、どこか不満を覚えたらしい。そんなことしたこともないのに、私は「なに」とつい、問いただしてしまった。友人に気の滅入ることを言われて、気分を害していたのもある。

「『ああ』だなんて。ちゃんと挨拶くらいしてよ」

するとどうだろう。そのまま持ち場に戻ろうとしていた彼は、しかめ面を見せて、それから体をきちんと向き直ってこう言ったのだ。

「あんたにガッカリした」
「――」

ずけずけと色んなことを言われるより、パンチのあるひと言に打ちのめされた。
完全に二の句が告げずにいる私に、彼は追い打ちのように何も言わず去っていく。それを無意識に追いかけたのは、私のプライドの問題だったのだろう。彼の肩をつかんで引き止めると、私はなぜだか必死に訴えたのだ。

「なんで? なんで急にそんなこと言われないといけないの」

うんざりしたような、それとも哀れみなのか。目をぱちぱちとさせて、どうしたものかと黙っている彼の態度に、私の方が焦りを募らせる。

「言いたいことがあるならはっきり言って!」

それで決心がついたのだろう。急にすっと眼の色を変えて、とぼけたような部分を打ち消してでた言葉は。

「そうやって俺のことも罠にはめてるつもり? それで最後には『お前がここへ来るのをやめろ』とか言うんだろ。悪いけど俺、自分のこともコントロールできないくせに、他人をコントロールしようとなんてする女、イヤなんだわ」

今度こそ本当に彼は戻って行った。
私は――私は大切なものを失ったくらい、本当にショックを受けた。

いつから私はこんなに――男に媚びていたんだと、気付かされて。





ラブシチュその38

実はこのシリーズ半分以上は、1日で書きました。
もえてたんだ

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時間的には丁度なんだけど。

市川は、携帯の時計と店内の時計を密かに見比べながら、満腹の腹に冷たいコーヒーフラペチーノをちびちびと注いでいく。
ここは中央駅にほど近い、ショッピングセンター内のコーヒーショップだ。店内は夜遅いせいか人影もまばらである。都会ではないから、この時間ともなれば当たり前だろう。むしろ高校生がいると大人は嫌な顔をする。
市川は甘いものが好きだし、メニューは気に入っている。だからといって、メニューに惹かれてわざわざやって来てるわけではないことは、カップの中身がいっこうに減らないことから容易に想像つく。


友達と遊んだ後、そろそろ家へ帰ってもいいというこんな時間だが、市川は1人遠い駅まで歩いてこの店にやってきた。こんな時、不思議なものでどれだけ歩いても苦にならなかった。
閉店時間までそう長いわけでもないから、いられる時間も限られている。だけれども、この時間だけは外せない。それも、長い長い時間と労力と高校生にとっては安くないお金をつぎ込んでようやく見つけ出した、貴重な時であるならなおさら。


店自体は、オープンしてから何度も来たことがあった。当初、市内にはなくて、いつも休日遊びに出た際、隣の市まででかけてまで行っていた店が、ようやく市内にオープンして、仲のよい友人たちとときたま通うくらいだった。で、いつかこんなところでバイトしたいなと考えながら、甘いコーヒーを頼むのが、ちょっとカッコイイと思ってた。
その時間に来たのは、たまたま。
でも見た瞬間、市川はもう、その人に決めていた。


「あ、こんばんはー」
「こんばんは市川くん。また来てるの?」
「今日も勉強帰り?」
「うん、まあ」
「大学生って大変だね」
「そうでもないよ。むしろ高校ん時の方が、よっぽど大変だった」
「ほんと?」
「大学なんて、コツさえつかんじゃえば、なんとかなるもん。このあたしがどうにかなってるんだから」
「まったまたー。それってユイさんのケンソンでしょー」
何気なく声を交わしあい、カウンターの自分の隣りと誘導しているが、これでも市川だってずいぶん努力したのだ。ただ生来の明るさと呑気さが他の人よりもそういったことを楽にしているのはあるかもしれない。


初めて彼女を見たときから、市川の中にはこの人しかないという思いが溢れた。で、どうしたかというと、市川は大胆にも、がらがらの店内でわざわざ彼女の近くを通って、手にしていた飲み物をぶちまけるということをやってみせたのだった。
『大丈夫?』
案の定、優しげな彼女は、甘いコーヒーでべとべとになっている市川に、ティッシュやらナプキンやらをさし出してくれた。市川はへらへらと笑いながら礼をいい、一緒に片付けて、店員が片付けと新しい飲み物を持ってきてくれるころには、会話の糸口をつかんで、ちゃっかり向かいの席を占めてしまっていた。

しかし時に運というものは協力な後押しをするものである。市川がたまたま名字を口にすると、彼女(ユイさんと言った)は驚いたように市川に聞いた。

「あの辺に住んでてイチカワって…え、あれ? あなたが『タケルさん』?」
「タケル? ん、あ、それたぶん、俺の従兄弟だけど。俺は『ゲンキ』だし。なんで従兄弟のこと知ってんの」
「従兄弟! 嘘。あたしの後輩の女の子がね、たぶん君の従兄弟の彼女だと思う」
「えっ、マジで? それって、すっごい偶然じゃない?」
「そうかも」
びっくりするような会話のあと、ユイさんの態度は急に和んだから、すっかり市川は有頂天になった。以来、市川は彼女の行動時間帯を聞き出し、その時間を半永久的に予約してしまったのである。


ユイさんはいつも、市川に対して特別寛大で、優しくて、そして…好意的だった。
彼だって、そう全てがうまくいくなんて思い込めるほど調子よくはないけど、いつも待ち構えている市川に対し彼女が親切にこたえてくれれば、ちょっとは期待もする。ましてや、会話の端々に、意味を考えさせられるような言葉があれば。

「ねえ、ユイさんは、ずっと彼氏いないんでしょ。どうして? そんなに可愛くて、話してても楽しいのに」
「もう市川くんてば、うまいんだから」
「なんで。俺すっげー不思議。俺がユイさんだったらさ、絶対男がほっとかないんだろうから、遊んじゃうかも」
「やあだ。あたし、そんな人間じゃないし」
ユイさんは市川にとって神秘的な瞳を優しげに、まっすぐ市川のほうへ向けて、笑う。
「それにね。人は、誰かの思い通りにはならなくて、誰かのかわりにもなれないの。君だってそうだよ。市川くんは市川くんにしかなれない」

彼女の視線に魅入られて、市川はしばしぼうとしてしまう。
間抜けの間。
「あ――あ――だよね。うん。わかる――。俺は俺だし。ユイさんだって、人のかわりはできない。でも、だから、いいんだし」
しどもどとした市川にかわって、彼女ははっきりと告げた。
「そう。君は君。別の人にはなれないの」
市川の胸はこれ以上ないくらいふくらんだ。ユイさんは、俺は人とは違うって言ってるんだ。つまりそれは、他の人がかわりになれないほど特別だって意味じゃないのか――
だけどユイさんの綺麗な瞳がふいとそれた。
「さ。もうこんな時間。そろそろ閉店だし。帰ろ」
市川は時間を確認してがっくりとくる。ああ、今日も楽しい時間が終わってしまった。

この時間をどうしたら続けられるだろう。独占できるだろう。ユイさんに告白したらいいのか。はたして付き合ってもらえるだろうか。
急激にどぎまぎとし始めて、言ってしまえ、今ならきっと、などと思いをよぎらせつつも、市川は結局言えずに、笑って済ませる。駅まで送ってくよなんてへらへら言いながら、ユイさんの方から何かもっと決定的な言葉をもらえないだろうかと期待する。

いつかもっと事態がはっきりすることがあるだろうか。
また、ちょっとした作戦を利用して、知ることができないだろうか。
希望に満ちた市川は、駅まで彼女を送りながら、ふわふわする足をできるだけゆっくりと進めた。




ラブシチュその37

ラブシチュ36からの続きです
本宅では「ラブシチュ物語陸」としてまとめているあれです。

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「タケルさん!」
少し遅れてしまったかしらと待ち合わせの場所に駆けてゆくと、タケルさんはまったく気にした様子もなく、いつもの通り磊落な雰囲気をまとったまま、笑顔で手を振ってくれました。
「アヤノー!」
タケルさん!」
嬉しくって、足が速まってしまいました。つい慌てすぎて、転びそうになったけれど、タケルさんが優しく支えてくれました。タケルさんは、本当に、わたくしにとって、王様です。
「お待たせしてしまいました」
「そんな待ってないぞ」
顔を見合わせれば互いに笑顔になる。それだけで、幸せな気持ちになる。そんなことがあるなんて。わたくしはずっと知りませんでした。


わたくしとタケルさんの馴れ初めは、「合同交流会」になると思います。
女子校に通うわたくしには、出会いなどほとんどないといってよく、かといって特に誰かと出会いたいと思うほどのこともなかったのですけれど、近所の高校との交流会にお友達から誘われ、これもお付き合いとやむなく参加したところで、相手の中にタケルさんがいました。

タケルさんとは目を合わせた途端、ぴんと、気が合うだろうという予感は抱きました。
大変気さくで、目元や、笑いかたに人柄が表れるような、とても穏やかで明るい人でした。
お話してみて、すぐに打ち解けました。
気取ったところのない、真っ直ぐな気性と、こういう場に来たのもわたくしと同じく、お友達とのお付き合いで、というのがわかり、大変好印象を持ちました。
交流会が終わる頃わたくしは、この人とだったら是非お友達になりたい、と思い始めました。
けれどタケルさんは、飾らない分ひどく正直なのです。
「野嶋さん、おれと付き合ってくれませんか?」
出会ってたった1回。数時間を過ごしただけだというのに、タケルさんはすぐに、みんなのいる前で交際を申し込んできました。
わたくしはあまりのことに慌ててしまいましたけれど、それでもすぐ、お返事をしてしまいました。
「よろこんで」


それからわたくしとタケルさんの交際は続いています。2人とも同い年ですし、学校のことや、毎日のこと、話題には事欠きません。
タケルさんは甘いものが好きだそうで、わたくしは家庭部に所属しているので、毎週決まった日、お菓子を作ると決まってる曜日には、必ず作品を持って行ってあげます。
そうするとタケルさんは、満面の笑みで、どんなものでも、美味しそうに食べてくれます。
1度、失敗作と成功作を取り違えて持って行ってしまったこともありました。
それでも、タケルさんは笑みを絶やさず、「美味しい美味しい」と最後まで食べてくれました。
あとで気づいて慌てて、あれは失敗作の方だったと謝ったのに、タケルさんは「そうか? 気がつかなかった」などと気にした風もなく言ってくれました。
そんな人なのです。

わたくしたちの交際は順風満帆で、わたくしはもう、既に運命の人を見つけてしまった気分でした。想像するに、将来この人の奥さんとなっている自分の姿が見えるほど、出会ってしまった感が否めないのです。
そしてその気持ちはきっと、タケルさんも抱いておられることを、わたくしは密かに感じとっています。
わたくしたちは先日、交際記念日と称した、わたくしたちが付き合った日付の日に、お互い指輪を交換しました。
いつもだったらこのイベントデーは、もっと普通に、美味しいケーキを食べに行ったり、どこか遠出をしたりと、ささやかな祝いであったのに、先日だけは、なんの打ち合わせもしませんでしたが、お互いにそんなことをしたのです。
通じ合ってるんだな、と、感慨深いものでした。


こんな、わたくしたちの幸せを、周囲の人たちにも分けてあげられればな、といつも願わずにはおれません。
例えば、わたくしをタケルさんと引き合わせてくれた交流会に誘ってくれたお友達であるとか。
いいえ、でも、彼女はまだ出会えていないだけですから、待っていればよいのでしょう。
それよりももっと、分けてあげたい人がいます。もう卒業してしまったけれど家庭部の先輩だった大事な人や、とてもモテるのにちょっとクールなクラスメイト、です。大切に想う人がいるのに、通じ合えないのです。2人とも、とてもいい人たちであるのに、うまく、好きな相手と通じ合えなかったのです。

幸せは、どうして誰しも平等に降ってこないのでしょう……。

「どうした、アヤノ?」
はっと、わたくしは顔をあげました。
いつの間にか、タケルさんを置いて、物思いにふけってしまっていたようです。
「ごめんなさい。ちょっと考え事をしていました」
「アヤノは優しいなあ。また、みんなの心配か?」
こういう時、わたくしはとても泣きたくなります。
どうして、タケルさんにはわかってしまうのだろう。
何も言っていないし、ついさっきまで、わたくしたちは幸せいっぱいな気分で、はしゃいでいたのに。
それでも、どんな時でも、タケルさんはすぐにわたくしの心を見抜いてしまいます。
だからわたくしは、タケルさんに惹かれてしまうのです。


「わたくし、幸せです」
「うん、おれもだ」
タケルさんのためにと作るお菓子の腕は、めきめき上達しています。
いつか、早く、別の曜日に作るお料理のあれこれも、ご馳走してあげたいです。
「近所に、同い年の従兄弟がいるって言っただろう? おれと違う高校に通ってるんだけどな。あいつもさあ、たぶん、今恋で悩んでんだ」
「そうなんですか」
「うん。たぶん。そんな気がする」
「幸せになれるといいですね」
「そうだな」
「わたくしたちみたいに」
「そうだな」
みんなが、幸せになれるといいのに。




ラブシチュその36

ちょっと間があいてしまったけど
ラブシチュ34からの続き(というか同系列)です

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希沙はその日あまり体調が良くなく、遅刻をして病院へ寄ってから学校へ行くことにした。根が堅すぎるのかもしれない。無理せず休めばと親でさえ言ってくれたのに、それを現下に断って、いつもよりも早く家を出て朝一番の早朝診療を受け終え、今から学校へ向かうところだ。
通っている女子高の中での彼女は、優秀で、しっかり者で、冷静で、誰からも頼りにされ、誰からも慕われる憧れの存在でもあった。別にそれを意識してのことではないが、同じ性別であるクラスメイトや部活の仲間たちや生徒会の皆から当てにされている、と思うと、自分を優先することがひどい怠慢のように思えて、自然に引き締まった気持ちになる。

比較的空いている個人診療の、あれだけ早い時間帯に行っても1限には間に合わなかったことにイライラとしながら歩いていると、もうとっくに遅刻だというのに走りもせずちんたら歩いている、生意気そうな男子高校生が目に入った。もちろん他校の知らない人物ではあったが、希沙にはそのなりや態度がひどく癪にさわった。そのくせ、転んだ女子高生を見かけると、そいつは急に親切心をだして助けたりしたものだからますます腹立たしかった。丁寧に助け起こし、荷物を持って、学校の中へと支えて連れてやったり。急激に沸き起こる感情の渦を小さな箱に押し込めるように、希沙は口中でつぶやいた。「あの学校は気障が多いか…?」

希沙は今見たことを忘れるようにぼんやりと歩き続けた。己の学校はもっと先である。だが、希沙の頭の中には昔のことがいくつも思い返されてしまった。似たような状況で出会った、元彼のことが殆どだった。そいつは、こちらが断っても勝手に助けるという余計なお節介野郎で、朝じゃなくて、夜のこと、彼はバイト帰りで店から出てきたところ、偶然希沙の怪我を見つけてしまったのが出会いだ。有無を言わせない強引ともとれる親切心の押し付けの挙句、爽やかに当たり前のことをしただけだと希沙を家まで送りつけていなくなってしまったから、希沙の性分からお礼をするには、自分の方からやつのバイト先へ向かうしかなかった。自分からみすみすチャンスをつくってやったようなものだった。気がつけば、そいつと付き合うことになっていた。元彼は、さっきの気障野郎と同じ学校だった。

結局別れてしまったけれど、今頃どうしてるだろう。

そういえばよくあの男の家に行った。
最後の日…あの男の部屋にリップを忘れてきた。くちびるが乾く冬に、買ってもらった色付きの…あれを塗ってキスをすると、普段冷静な希沙も少しは熱くなった。自分のくちびるが乾く度に、わざとらしく「俺にも塗って」なんて言って、キスをせがまれる、そのリップを忘れたのは、無意識下に意識していたのかもしれない。
年下だったけど、体格もよくて、包容力もあって、広い心の持ち主だった。けして悪い人間ではなかったし、いつも知らず気が張っている自分の気持ちを嫌味なく開放してくれるような、人だった。今思えば、自分さえしっかりしていれば、それに呑まれるなどということは、なかったのだ…

……いつまで引きずっているんだ。
悪あがきのようでみっともない。自分から別れをきりだしておいて、バカみたいだ。
(あいつは私を許してくれた。でも、私は私を許せない)
ひどく傷つけたことも、自分勝手な理由だったことも、よくわかっている。しかし、希沙は別れるしかできなかった。やつの心の広さにこれ以上甘えることが、罪悪のように思えて仕方なかった。

もういい。考えても意味がない。失ったものは二度と戻らないのだから。
希沙は忘れようなどとは考えていない。自分で負った罪として、一生抱えていこうと思っている。それでも、自分で決めたことに未練たらしいのだけはしたくない。

ようやっと学校につくと2限が始まるギリギリであった。教室のみんなは心配そうにあれこれ言ってくれて、希沙は大丈夫だと安心させるように答えた。
誰もが同い年の希沙を姉のように慕う中で、唯一、彼女を同等に扱う友人の目が、優しく希沙を見つめているのに気がついた。希沙はまわりと同じように「おはよう綾乃」と言ったのに、綾乃は返事もせずただ、しとやかに希沙の両の手のひらをつかんで、「泣いているの」と言った。それを聞いて、希沙は急になんだか全てが神の盤上で決められたひとコマのように感じて、悲しくなった。本当に涙が出ているのではないかと疑ったほどだった。
くちびるを噛み締めていた。




ラブシチュその35

いんたあみっしょん…
しまった、番号がこれでずれてしまうぜ
1323(その13とその23以降の一連)はあとちょっとだけ続く予定

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それは唐突とも言えるし、そうでないとも言えた。

彼とは「付きあおう」と言い交わしたこともなければ、「付き合って」と口にしあったこともない。
けれど、休みの日が来る前には必ず「どこそこへ行こう」と約束し、「なになにをしよう」と当然のように誘いがあった。彼女から「行きたいとこがある」と言うことも普通で、それを当たり前のように彼は受けてくれる。
いちおう、線引きはしていて、助手席にも乗るし、なんとなく互いの体に触れたりはしても、それ以上のことはない。たとえ手をつなぎ腕をくむようなことがあっても、どこか気後れして、きっかけさえあればすぐにそれはほどける程度のものだ。

だから、2人の関係に名前はつけられないけど、普通よりは絶対近いところに位置していて、親友と呼ぶには少々甘いようなものだったんだと思う。
なんでこんなずるいような関係を続けてるのかわからなくても、均衡を壊すなら相手からにしてほしいと心のどこかで願っていたと思う。いや、そうじゃなくて、ただ、彼女はずるい気持ちでいたのだ。何かあっても、私のせいじゃないと。そう言えるような行動しか、しないよう気をつけていたのだ。


初めて、彼の部屋へあがることになってしまった日。
色々な巡り合わせではあったけど、いちおう、変な意図はなかった。それで、次回からは素直に部屋も行き来するようになればいいだけのことだと雰囲気で読めたから、意識してる彼女自身を嫌悪していた。
座るべきところを探し、ゆっくりと腰を下ろし、テレビとレコーダーを起動する。
持っていたDVDをがさごそとかばんから出して、その間に彼は飲み物を出してくれるのを肌で感じる。
デッキにいれようとしたら彼がさっさとその作業をやってくれて、テレビの位置から当たり前のように彼女の隣に座った。
そこまでだ。


飲み物も、2つ、並んでる。
いつも歩くよりは近くない程度に、2人は並んでる。
少しだけ、部屋を暗くしている。


前からくる音響の大きさと、息をじっと詰めている自分と、その空間のわだかまりのあまりの大きさに、彼女は唐突に耐えられなくなって、立ち上がり、すばやく荷物をつかむと、出て行こうとしたのだ。


「どこ行くの」


けれど。
けれど彼はそれを、止めた。
慌てたふうもなく、ただ口にするだけで。
振り向きもしていないのが、空気でわかる。


「どこ行くの」


彼女は、怖かった。
何もかも。
壊れることも壊すことも、違う段階に進むことも戻ってしまうことも。
全部怖くて。
全部愛しくて。
全部憎らしくて。
どうしていいかわからずに、その場にしゃがむと、くちびるを噛む。


予告はとっくに終わり、ドラマの第1話が始まっている。
男女はとっくに出会い、まだ関係はぎくしゃくとしたものながらも、踏み出し始めている。


「戻れば」
「……」
「戻ってきなよ」
「……」
「やだってんなら、なんもしない。欲を言えば、キスくらいはしてえけど」
「……嘘つけ」
「あ、ばれた? うん。ほんとはその先くらい、勢いでやっちまおうかと思ってた」
「…やっぱり」
「だめかな」
「わかんない」
「だめかな、俺たち」
「わかんないから困ってんじゃん!」
「わかんないから試してみるが正解じゃないの」
「わかんないよ…」
「案外、鈍いんだな」
「なにが」
「ほら、早くここ座れ」
「ヤダ」
「もう諦めろ」
「諦め?」
「そうだ、諦めろ」
「……」
「諦めて、現実を、受け入れろ」

ゆっくりと振り返ると、思ったほど彼との距離はなくて、彼は彼女の方をしっかり見ていた。
それはけして誤魔化したりせずに、言いたいこと全部表れてる表情だった。
伸びて来た手のひらが彼女の頬をとらえて、ゆるやかにかすめた。

ひとつまたたきした後には、もっと近いところに、彼がいた。





ラブシチュその34

ここんとこずっと続く1323です!
思いましたが、もうこれをシリーズみたいな形で本宅にのっけても、いいような気がしました。
かなりの量書いてるし……

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真隆がちんたら歩いてるその日は制服検査を校門でやっていて、このままのペースで行けば遅刻は確定だった。だけど急ぐとか走るとかそういうのが性に合わないと考えてる。せっかくセットした髪や服の具合が乱れるのが嫌だとも思ってる。実際、真隆の服装は確実にひっかかる。だらしなくシャツが出てるし、タイはカバンの中だし、ベルトについては没収されるかもしれない。そうして校門で足止めされてる間に、1限はふけた方がいいという時間になって、服装についての反省文に遅刻に対しての反省文が上積みされ、その日は1日潰れてしまうだろう。そんなのは御免だ。だけとやっぱり走らないのも、真隆が遵守すべきポリシーだからちんたら歩いてる。もしかするとそれは、本人が考えた真隆像なだけかもしれないが、ともかく本人は俺は走って間に合わせるタイプじゃないと考えてる。

で、真隆はどうしたかというと、ちょどいいターゲットを発見したのだ。
彼女は、同じ学校の制服を着ていたから、たぶん検査もわかっていて、ホームルームに遅刻しないよう必死に走っていたのだろう。
「いったぁああい!」
その彼女が派手に転んだというわけで、真隆は助かった、と心中喝采した。人非人と罵られるかもだけど、遅刻する理由が必要な彼には都合がいいことこの上ないのだもの。仕方ない。それで素早く近寄って行くと、擦りむいて膝から血を流している彼女に声をかけた。
「だいじょぶ?」
でも実際、彼女の膝はかなり痛そうだった。ちゃんと手当しないと、化膿してしまうかもしれない。下心満載で寄って行ったわりには、走って転んで泣きそうになっている少女の姿を見ていたら、脳内に子供の頃のことが蘇った。
「転んだの」
『転んだのか』
走る自分と、それを必死で追いかけてくる少女。
気がつくと、転んで、わんわん泣いて、真隆の足を止めてしまう少女。
放っておいて自分の約束に行こうと思うのに、放っておけない。
しょうがねぇな、と手を差し出すしかない。
「歩ける?」
『歩けるか?』
現代の真隆がぶっきらぼうに言い放つと、おろおろしていた彼女は、血の滲む膝と真隆の顔を交互に見ながら、さっと頬を染めた。そのへんは全く、記憶の中の風景とは異なったけれど、ま、意地でも助けるしかなかったし、ここはひとつ頼むよ、と言葉を続ける。
「ねんざとかだったら、保健室まで連れてったげるけど」

『おぶってやろうか』
「あ、歩けないです…」
真隆の真意が通じたのか、彼女は素直に真隆に助けを求めた。
さすがに知らない女の子をおぶるわけにもいかず、腕を貸し、荷物を持ってやった。
彼女は嬉しそうに真隆によりかかり、2人は一蓮托生となって、校門をフリーパスした。
もちろん真隆はそこで彼女を放り出したりせず、ちゃんと保健室まで連れて行った。


ガラガラと教室のドアを開けると、いつもの仲間が声をかける。
「おー、マー君! 中途半端だなあ。またギリかよ!」
「ちげぇよ人助けだよ人助け」
「またまたぁ、嘘吐かなくてもいいって。どうせ髪の毛が1ミリはねてたとかで、鏡から離れられなかったんだろ」
「だからそんなんじゃねぇって」
「もしかして、そのキメにキメちゃった格好で、検査ひっかかってたのぉ」
「俺のことより、テメーらだってどうせ反省文とかなんだろ!」
「んなヘマするかっての。見栄はるのは妹ちゃんの前だけにしときなってにぃに!」
「てんめ!」
「ギャハハ!」
真隆の頭の隅に残っていた小さい頃の自分の姿は、泣いた妹を背負って帰り、約束に遅刻しても、絶対に謝らないというポリシーを持っていた。





ラブシチュその33

今日は水曜であったか!

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アオイはいま、すっごく忙しいの。

そもそもは、ライバルがいるってところから、始まるんだけど。
あ、やっぱライバルなんかじゃない。向こうはすっごい意識してるけど、アオイは全っ然意識してないもん。
えーと、だから、なんていうか、その……目障り。そう、目障りな子がいんの。クラスに。
へんちくりんな髪型して、大して可愛くもないくせに、なんかぶりっ子キャラっていうか。そんな感じ? もちろん、アオイは本当に可愛いし、あの子なんかよりよっぽどお行儀もよくて頭もよくて運動もできてとにかく全部上なのを、自慢したりしないいい子だよ? なのにあの子はそれが気に入らないっぽくて、何かっていうとアオイのこと目の敵にして、対抗意識燃やしてくるっぽい。そういう子。

アオイは、まあそのへん、大人だし? もう高1だから、くっだらない子供同士のケンカみたいなこと、もうしないけどね。軽〜く無視してるってわけ。
そうしたらなんか? あの子、自分だけじゃ負けると思ったのか、家族の自慢話とか。うちの学校の2年にお兄さんがいるとか。それが、超イケメンだとか、すっごく優しいとか、料理巧いだとか、なんか、わけわかんないことタラタラ自慢始めたわけ。まあ完全自分視点の妄想だろうけど。

アオイにお兄さんがいないもんだから、比較できないとこで勝とうとか思ったんじゃないかなあ。でもそういうの、見苦しいよね。ってアオイは思うわけ。
それでもまあ、気にはなるじゃない? あの子のお兄さんとやらが、どんなもんか。信憑性はかーなーり薄いけど一応、どれだけあの子が大風呂敷広げて大ボラ吹いてるか、確かめてから言い返してやった方が、いいかなと思ったわけ。
それでアオイ、入学してすぐもらった学校名簿、家で調べて、明日教室までお兄さんを見に行ってやろうって思ったんだ。


次の日の朝は、校門のとこで、抜き打ちの制服検査やってるって話(抜き打ちなのにみんな知ってるって、どうかと思うよね)だったから、アオイ、早めに学校行くつもりだったんだけど、うっかり宿題のノート忘れてきちゃって、家に取りに帰るはめになっちゃった。
いつものアオイなら絶対有り得ないミスだよ。たぶんこれも、あの子がくだらないホラを吹聴しまくって、名簿夜中まで調べまくって探してたから、寝不足になったせいだと思うわけ。
寝不足は美容の大敵なのに、ほんと、そういうとこでもあの子のセコい性格が出ちゃうっていうか。まあアオイはちょっとくらい睡眠不足でも、お肌はつやつやで、あの子よりずうーーーっと綺麗だけどね。

とりあえず、急がないとヤバいっていうんで、家まで戻って、また大急ぎで学校へ引き返して、走りに走ってたの。
結構ぎりぎりな時間になっちゃってたから、無遅刻無欠席の優等を目指してるアオイとしては、相当焦ってたのかも。入学して早々それじゃあ、マズいしね!
それが走ってる途中、いきなり転んじゃって!
前につんのめって、ずざざって、派手に倒れて、ひざすりむいた。

「いったぁああい!」

もう本当に痛くて、ひざから血とか出てるし、みっともないし、恥ずかしいし、腹立つし、でも急がないと間に合わないしで、泣きたくなった。
そんときだったんだ。
「だいじょぶ?」
急に声かけられて、アオイ、びくってしちゃった。だって、アオイ可愛いから、ナンパとかスカウトとかだったら、困るし。
そしたら、うちの高校の制服着た男の人が、アオイのこと見てたんだ。
「転んだの」
アオイ、どうしようって、おろおろしたの。
あ、べつに、アオイが緊張とかしたわけじゃなくて。だってほら、アオイ可愛くて、男子から声とかかけられ慣れてるから!
とうぜん、その人が、超カッコ良くて、アオイの好みだったとかも全然ないけど。全然! アオイの好みのど真ん中いってるとか、ないから。うん。絶対違うから。

ただね。その人、アオイが痛そうに足かかえてたら、手差し出してくれて、歩ける? とか聞いてくれて。ねんざとかだったら、保健室まで連れてったげるけどとか、言ってくれて。
アオイ、どうしよう、どうしようって考えてみて、足はべつに、ねんざも骨折もしてなくてただ擦りむいただけだったし。
だけどね、なんていうか、そこでその人のせっかくの好意を? 無駄にしちゃ悪いな、とか思って?
アオイ、それで、ちょっと、演技してみせたっていうか。
「あ、歩けないです…」
とかって、可愛い声でお願いしたら、その人、本当に連れてってくれたんだよね。

その人は、アオイに腕をかしてくれて、荷物まで持ってくれて、ゆっくり、ゆっくり、一緒に正門まで歩いてってくれた。お陰で、完全遅刻だったけど、先生は、アオイたちの状況を見て、許してくれたし、すぐに「保健室で手当してもらいなさい」って検査とかもパスで(まあ別にひっかかることもなかったと思うけど)、すっごい優越感に満たされた感じだった。
たぶん、1年じゃなくて、先輩な人だったと思うんだけど。丁寧に保健室まで連れてってくれた後、お礼を言って、名前を尋ねたら、「別に、いいし」とかって、さらっとかわして、行っちゃったとことか、やっぱ大人な感じだったから。
制服の着こなしも? ちょっと、そこらの人と違うって、感じだったし。
ニヤニヤしたり、不真面目な感じとかもなく、普通に、当たり前ですって雰囲気で、そういうとこも、アオイ、感心したっていうか。
顔も、ちょっとワイルドっていうか、強面ってほどじゃなく、ちょっと斜に構えてるかな? って感じはあるけど、パーツ整ってるし、肌も綺麗で、髪もさらさらで、体も細くって、アオイの彼氏候補としては、合格かも、とか思えるくらいで。

あ! アオイみたいなアイドルは、早々だれかのものになったりとか、付き合うとか、ありえないけど。
まあもし。もしもね。あの人が、運命の出会いを感じちゃった! とか、アオイのことひと目ボレしちゃった! とかだったりして、アオイとどうしてもお付き合いしたいなーっていうんなら? アオイも考えてあげなくもないよ。ほら、助けてもらったお礼もあるし。アオイもいま丁度、年上の彼氏が欲しいなあーなんて考えてたから。そういうこと。

とりあえず、アオイは受けた恩はちゃんと返す由緒正しい人間だから。
アオイの手作りのお菓子でも用意して、その人にお礼するために、先ずは何年何組の誰さんなのか、探そうかなって思ってるの。
そういうわけで、いま、アオイはとっても忙しいの。

朝も休み時間も放課後も、遊んでる暇なんかないから!




ラブシチュその32

例のラブシチュ13、23〜の。
あれこれの視点で書くのはかなり好きみたい

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あたしには、クラスメイトの凛ちゃんのような婚約者はいなけれど、優しくてカッコよくて何をさせても1番なお兄ちゃんならいる。


あたしは今年、大好きなお兄ちゃんと同じ高校に入学した。お兄ちゃんの行くところ以外に通う意味なんてないから、お兄ちゃんが県外の学校に通ってたら、あたしもそこを受験するつもりだった。けどお兄ちゃんは地元の高校にしたから、あたしも迷わずそこを受験した。お兄ちゃんが大学生になったら、あたしも同じ学校に行くって決めてる。

本当は勉強なんてそんな好きじゃないけど、お兄ちゃんがどんなすごい学校を選んでもあたしも後を追えるように、一生懸命がんばることにしてる。それに、お兄ちゃんに勉強を教えてもらう口実にはなる。お兄ちゃんはあたしのことをすごく大事にしてくれるから、無料報酬の家庭教師のまねごとをけして嫌がったりしない。

お兄ちゃんは、あたしが教わった通りにちゃんと解くと、あたしが『極上の笑顔』と呼んでいる静かな仏頂面で頭をなでてくれる。テーブルに頬杖をつきながら、ちょっと上から見下ろすように、口元を尖らせて、子犬を可愛がるみたいに、手だけはわしわしと激しく。それが大好きで、あたしはもっと頑張りたくなる。それでテストを頑張ると、気まぐれに大好きなケーキを買ってくれたりもする。偶然だなんて言いつつ、必ず2つあって、いらないから全部くれるっていうんだけど、あたしはお兄ちゃんと一緒に食べたいから、わけっこしようって言う。そうすると、お兄ちゃんはまた『極上の笑顔』で、あたしの頭をなでてくれる。それから、わざわざお茶までいれてくれて、一緒に食べる。結局ほとんどあたしが食べてるんだけど、時々ちょっとつまんで、美味しい部分を含めたところを「早く食え」なんて寄越すお兄ちゃんが、あたしは大好きだ。

もちろん、残念な部分だってないわけじゃない。もともとカッコいいと思うのに、高校生になって変にカッコ付けるようになった。前髪を伸ばしてみたり、制服をアレンジしたり。もとからオシャレだったけど、あんな俺様路線に走ると思わなかった。あたしは今でもお兄ちゃんは素のままの方がイケてると信じてる。でも、お兄ちゃんがいいと思ってやってるから黙ってる。どんなお兄ちゃんでも好きだから。それがあたしのお兄ちゃんへの愛だもの。

そんなあたしに、実はまだ知らないお兄ちゃんがあった。外でお兄ちゃんに会った時だ。高校に入って、友達に囲まれてるお兄ちゃんに初めて会った時、あたしはそのことを知った。




先日のこと。学校帰りにお兄ちゃんを見つけたから、嬉しくって一緒に帰ろうと、駆け寄った。でもお兄ちゃんはあたしが声をかけたら、ぎょっとしたように振り返って、急いで逃げ出した。あたしはふざけてるんだと思って、逃げるお兄ちゃんを笑いながら追いかけた。そしたらお兄ちゃんの周りにいた友達らしい人たちが、一瞬の間の後、げたげた笑ってお兄ちゃんを指差した。

「おーい! 可愛い女の子が呼んでるぞー」

再び笑い声。お兄ちゃんは真っ赤になって怒ってる。
なんでそんなに怒ったり笑ったりしてるかわかんなかったけど、友達の中の1人がお兄ちゃんを捕まえてくれたし、可愛い女の子って言われて、友達はあたしに優しく声をかけてくれたから、あたしは無邪気に喜んだ。

「ほらほらマー君、逃げんなって」
「うっせ! 放せよ! てめぇーにゃ関係ねーだろっ」
「なあに照れてんのぉ」
「照れてねえよ!」
「ねえねえ妹さんでいいんだよね? 名前、なんてーの」
「話しかけんな!」

「天野ほのか」
「こいつらの問いにマジレスすんな!」
「おっ、シスコンですかあ?」
「黙れ!」

「ほのかちゃん〜。僕ら、マー君にこんな可愛い妹さんがいたなんて、ましてや同じ学校にいたなんて知らなかったよ〜」
「ほんと?」
「マー君、余計なことはいっぱい言うけど、大事なことは全然喋んないしね」
「最近ちょっとカッコ付けてるんだよ」
あたしが言うとそこでなぜだか大爆笑が起こって、きょとんと周囲を見たけど、お兄ちゃんは体の大きな人に羽交い締めにされてて、あたしは残りの数人に取り囲まれてお姫様気分だった。
「じゃあさほのかちゃん、マー君て、家じゃどんなお兄ちゃん?」
「すごく優しいよ」
「へえ!」
「勉強も教えてくれるし」
『やめろお!!』
「し?」
「誕生日プレゼントとかくれるし」
『喋んじゃねえええええ!』
「し?」
「あたしが受験の時は、たまに夜食作ってくれたりしたよ」
「おおおおお〜〜〜」
『うぎゃー!!!!』

何度もお兄ちゃんの叫び声が聞こえたけど、あたしはお兄ちゃんの素晴らしさを知らしめたくて有頂天になってたから、夢中で喋った。

「にぃにぃは、あたしにとって世界一のお兄ちゃんだよ!」

あたしが興奮して自慢したのに、友達はどういうわけか「やっぱ! やっぱそうなんだ!」なんて大笑いして、涙まで流してた。
それからみんなで「にぃにぃ、大好きぃ」「にぃにぃ、世界一ぃ!」なんて言って、仲良さそうに肩を組んで「これからほのかちゃんも一緒に、甘いもの食べに行かない?」なんて誘ってくれた。お兄ちゃんは始終怒りっ放しだったけど、お店にはちゃんと連れてってくれて、ご馳走もしてくれたから、あたしは満足だった。



以来、外で会った時のお兄ちゃんはちょっと変で、あたしのことを、わざとぞんざいに扱う。わざと、って思えるのは、顔を見れば動揺してるのがわかるくらい、本当はあたしのこと普段みたいに可愛がりたいくせに、葛藤してるのが出てるからだ。葛藤するくらいなら可愛がって欲しいというのが、あたしの意見だけど、お兄ちゃんが意地悪になるわけじゃないから、取り敢えずよしとしている。
お兄ちゃんの友達はあたしを見つけると大抵「あ、ほのかちゃんだ〜」って楽しそうに迎え入れてくれる。「俺らのことも、にぃにぃって呼んで、にぃにぃと思ってくれてかまわないよ?」とまで言ってくれた。
お兄ちゃんがいい友達に囲まれて良かったと思う。
これもひとえに、お兄ちゃんの人徳だと、あたしは思っている。




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